大島汎海
土壌への加圧により発生する地電流変化について
地磁気観測所要報, 第13巻, 第2号, pp. 1-16, 1970年3月
要旨
未電化時代の常磐線に運行していた蒸気列車を利用して,土壌に圧を加えたために生ずる地電流変化を測定した結果と,それに対する一解釈について報告する。測定の結果,地電位差には20mVを超す大きな変化が観測されたが,列車荷重程度の圧では測定にかかるほどの大地比抵抗の変化(大地比抵抗の値に対しその変化分の大きさが1%程度以上あれば検出可能である)は全く認めることが出来なかった。これは地電位差に現われた大きな変化を大地比抵抗の変化によって説明しようとする考えを完全に否定するものである。そこで大地を半無限にひろがる多孔質隔壁と考え,その中に土壌水が満たされており,それと土粒との間に電気二重層が形成されているものとして,そのような大地に加圧することにより土粒細隙を土壌水が移動して,それに伴う流動電位が生じ,そのために大地中に漏洩電流が流れると考えて見た。この考えにもとずいて計算を行なったところ,実測した地電位差変化とよく一致する結果が得られた。これにより土壌への加圧により発生する地電流変化の主たる原因は土壌中の流動電位とその大地中への漏洩であるという結論に到達した。この問題は大地中の圧力不均衡域と差電位差の関連を通じて,地震予知問題と重要な結びつきをもってくる可能性があるものと考えている。
大地洸
吾妻火山、蔵王火山、草津白根火山の地磁気調査報告
地磁気観測所要報, 第13巻, 第2号, pp. 17-30, 1970年3月
要旨
1966年,1967年に実施した吾妻,蔵王,草津白根の3火山の地磁気伏角の観測結果をまとめて報告する。
この調査は静穏期におけるこれらの火山の基礎的な資料をうることを目的としたもので各火山の測点の観測値,柿岡との差,国士地理院1等磁気点との間接的な差,日変化の卓越する時間帯での各測点の伏角変化と柿岡との比較とその検討結果等について報告し,今後の火山の磁気的調査をより効果的とするための調査観測の方法について述べる。
大地洸
地磁気観測所構内の精密磁気測量報告
地磁気観測所要報, 第13巻, 第2号, pp. 31-48, 1970年3月
要旨
次期標準磁気儀観測室の設置予定地である通称「ひばりが丘」の磁場分布を調査することを目的として地磁気各成分の精密測量を実施したのでその結果を報告する。この結果「ひばりが丘」の東側から南西側にかけての敷地境界ぞいに見られる地形による磁気異常,望遠鏡室その他建造物による磁気異常等が認められ,比較的平坦である丘の中央部でもその同囲の異常域の影響で磁場の傾度は割合に急であることが明らかとなった。このため次期標準礎気儀室を「ひばりが丘」に設置し標準観測を実施するには敷地の整地,一部建造物の移動等の措置をとることがのぞましい結論をえた。
今実
松代の地磁気特性について
地磁気観測所要報, 第13巻, 第2号, pp. 49-72, 1970年3月
要旨
地磁気観測所は1965年10月から1967年9月まで,長野県松代町の地震観測所構内において,地礎気の観測を行なった。この資料に基づいて,松代における地磁気の特性を調査した。全般的にみて,鉛直分力以外は柿岡の特性に似ている。特性の異なるものとしては,鉛直分力の短周期変化が非常に小さく,柿岡に比べて半分以下であること,磁気子午線に直角な方向の短周期変化は柿岡より大きく,約1.6倍であることなどがあげられる。
永井正男
地磁気嵐とその先駆現象としてのsfeの関聯について
地磁気観測所要報, 第13巻, 第2号, pp. 73-87, 1970年3月
要旨
地磁気嵐は太陽フレアーの際に放出される荷電微粒子流によっておこされるものと,太陽の自転にともなって27日の回帰性をもつM領域から放出される荷電微粒子流によっておこされるものとの2種類にわけられるが,ここでは前者の太陽フレアーの際に放出される荷電微粒子流によっておこされるものの中 solar flare effects(sfe)をともなった地磁気嵐についてその関聯性を調べ,さらに太陽電波の outbursts との関聯についても調査をすすめた。
その結果 sfe の約30%が2〜3日後に地磁気嵐をともなうことをたしかめ,又 Type W の outbursts をともなった場合においては約60%の確率で地磁気嵐がおこることがたしかめられた。
さらに sunspot cycles との関聯においては,極小期附近においては sfe と地磁気嵐との関聯はほとんどなくなり,極大期附近においては sfe の40〜50%が地磁気嵐をともなっており,D.Van Sabben(1953)およびR.A.Wattson(1957)の研究は太陽黒点の極小期に近い期間において sfe と地磁気嵐との関聯を調べたために何等の関聯を見出せなかったのではないかという M.A.Ellison(1958)の議論を裏ずける結果になった。