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令和7年度地磁気観測所調査研究計画一覧

重点課題

1.電磁気による火山活動評価の高度化に向けた調査(令和5〜7年度)

[担当者]:(〇が主担当)
○浅利 晴紀、森永 健司、増子 徳道、谷口 秀隆(技術課)、平原 秀行、長町 信吾、有田 真、北山 拓、下川 淳、屋良 朝之、櫻井 友己(観測課) 飯塚 ふうな(網走地磁気観測連絡事務所)

[概要]:
 火山活動の活発化に伴う全磁力変化の観測事例はすでに多数報告されており*1, *2、当所による雌阿寒岳、草津白根山、伊豆大島における観測の成果*3, *4, *5を含め、それらは火山監視に対する全磁力観測の有効性を示唆している。これらの変化は、火山体浅部熱水系の状態変化に起因すると推定されており、全磁力変化の傾向を捉えることにより、非噴火時の活動度の評価、および水蒸気噴火の発生予測に貢献することが期待される。特に平成26年の御嶽山噴火災害を契機として、後者への社会的ニーズが高まっている。気象庁地震火山部では、平成27年度から水蒸気噴火の前兆を早期に捉えるための新たな観測手法として全磁力観測にも着目し、その他の多項目観測との統合解析による火山活動評価手法の高度化に取り組んでいる。
 本調査研究では、地震火山部による火山業務改善の取り組みを技術的に支援するため、火山活動の監視および評価手法の高度化に係る技術開発に引き続き取り組む。
 当所が従前より定常的に実施している雌阿寒岳、草津白根山、伊豆大島での全磁力連続観測に加えて、平成27〜30年度以降に地震火山部が連続観測施設を整備した樽前山、吾妻山、安達太良山、御嶽山、九重山、霧島山えびの高原(硫黄山)(以下、本庁整備6火山)を調査フィールドとし、これまでの観測成果のとりまとめと解析、ノイズ低減手法の開発、観測測器の技術開発、センターによる業務化を見据えた安定的・効果的な観測のあり方の検討を引き続き進める。

[共同研究に係る関係官署及び所外関係機関]:
 気象庁地震火山部火山監視課、地震火山技術・調査課、札幌・仙台・東京・福岡管区気象台および鹿児島地方気象台の各地域火山監視・警報センター、東京大学地震研究所、東北大学

[参考文献]:
*1 Yukutake, T., Utada, H., Yoshino, T., Watanabe, H., Hamano, Y., Sasai, Y., Kimoto, E., Otani, K., Shimomura, T. (1990). Changes in the Geomagnetic Total Intensity Observed before the Eruption of Oshima Volcano in 1986. J. Geomag. Geoelectr.. 42. 277-290. doi:10.5636/jgg.42.277.
*2 Kanda, W., Utsugi, M., Tanaka, Y., Hashimoto, T., Fujii, I., Hasenaka, T. and Shigeno, N. (2010) A heating process of Kuchi-erabu-jima volcano, Japan, as inferred from geomagnetic field variations and electrical structure. J. Volcanol. Geotherm. Res., 189, 158-171, doi:10.1016/j. jvolgeores.2009.11.002.
*3 島村哲也,有田 真,増子徳道,雌阿寒岳における全磁力観測,2016年 Conductivity Anomaly 研究会論文集, 71-76, 2016.
*4 下川淳,山崎明,笹岡雅宏,増子徳道,弘田瑛士,草津白根山における全磁力観測の現状について,2021年Conductivity Anomaly 研究会論文集, 41-48, 2021
*5 浅利晴紀,長町信吾,伊豆大島における全磁力観測の進展,2023年 Conductivity Anomaly 研究会論文集, 52-59, 2023.


基礎課題

1.機械学習によるK指数判定手法の開発(令和7年度)

[担当者]:(〇が主担当)
〇長町信吾(観測課)

[概要]:
 地磁気変動の活動程度を表す指数のひとつにK指数がある。1日を3時間ごとの8区間に分け、各区間において地磁気の変動の振幅を準対数的に0〜9の10階級で評価するもので、地磁気観測所では柿岡、女満別、鹿屋の3地点のK指数を公表している。K指数を測定するためには、実際の地磁気変化から、想定される日変化を取り除かなくてはならない。1930年代にはじまるK指数の黎明期から、観測者の経験に基づいて推定された日変化曲線をアナログ記録に鉛筆等で書き入れ、スケールを記録紙に当てて指数を読み取るという手法(以下、ハンドスケーリングと呼ぶ)で行われていたが、観測データがデジタル値で取得できるようになった1980年代以降には計算機による手法がいくつか開発された*1。ハンドスケーリングには、読み取りに手間がかかること、観測者の主観を完全に排除できないこと、担当者が変更になった場合の判定基準の確実な引継ぎなどの課題があり、計算機による判定が採用できればそれらの課題が解決されるものと期待された。しかし、過去に当所で行われた試験*2、*3では満足のいく正答率を得ることができず、現在でも報告値はハンドスケーリングによる読み取り値を採用しており、計算機による読み取りは速報的な判定に利用するのみにとどまっている*4。
 これまでの計算機による手法は、何らかの数学的アルゴリズムを用いて日変化を推定するものであった。しかし、K指数として計測されるべき地磁気変化は、数分から数日間という非常に広い周波数領域にまたがるため、日変化と数学的に分離することが難しい。このため、計算機による日変化の推定と熟練の観測者の経験に基づく推定との間に大きな乖離が生じることがあり、これが計算機による手法では満足いく正答率が得られなかった大きな理由である。本研究では、従来の数学的手法による日変化推定の方法から離れ、熟練の観測者が持つ経験則を機械学習によって計算機上で再現するという新しい試みによって、精度の高いK指数判定を目指す。

[参考文献]:
*1 Menvielle, M., Papitashvili, N., H?kkinen, L., Sucksdorff, C., Computer production of K indeces: review and comparison of methods. Geophys. J. Int. 123, 866-886,1995
*2 山田雄二,K 指数決定のデジタル化について─LRNS 法の場合─,地磁気観測所技術報告,37,58-68,1997
*3 小池捷春,玉谷智佐,長谷川一美,デジタルK 採用に関する調査─試験運用結果とその評価─,地磁気観測 所技術報告,38(1),1-10,1998
*4 長町信吾,K 指数速報値を計算機で算出する新しい手法,地磁気観測所テクニカルレポート 第12 巻第1,2 号,1-9,2015
*5 令和5年度地磁気観測所調査研究業務成果報告書


2.地磁気観測施設の構内における各観測点の地磁気変化特性に関する調査 (その5)(令和7年度)

[担当者]:(〇が主担当)
〇屋良朝之(観測課)、浅利晴紀、森永健司、松浦大輔(技術課)、飯塚ふうな(網走地磁気観測連絡事務所)

[概要]:
 地磁気観測所では柿岡、女満別、鹿屋、父島における地磁気変化を連続観測している。各観測施設内で観測される地磁気変化はほぼ同じであると期待されるが、構内で近接する主測器と副測器の間にも地磁気現象ばかりか日変化においても明瞭な差がある。地点間距離が約3.4kmの鹿屋と祓川では外部擾乱変動に多少の地点差もあろうが、2015年6月22日に発生した磁気嵐においては、鹿屋と祓川の振幅の差よりも、むしろ女満別構内に設置された主測器と副測器の振幅の差の方が大きいことが明らかになった。各地点固有の誘導磁場が影響しているものと考えられる。
 令和4年度までの調査研究(その1、その2)では、観測点の地磁気変化特性の相違を調べるため、各時系列から抽出した1時間変化量などをデータセットとして統計調査を行った。その結果、女満別・鹿屋の一部観測点では、変化量そのものと変化量の地点差の間に単純な線形関係を見出せず、これは温度変化などを考慮しても改善しなかった。各地点の地磁気変化特性に異なる周波数依存性があることが示唆された。令和5年度、6年度の調査では、鹿屋(kny00,hrg)と女満別(mmb00,mmb01)それぞれ2観測点について周波数解析を行った。振幅特性においては、周波数帯によっては、顕著な振幅比があることから、観測点固有の変化特性があることがわかった。また、位相特性においては、ノイズの影響で位相差の評価ができない結果となった。
 そこで、今年度は昨年度得られた振幅スペクトルおよび位相スペクトルのノイズを除去し、明確な振幅比および位相差を抽出することを目指す。そのために、新たにリモートリファレンス法の適用を試み、各観測点固有の誘導磁場による影響を推定する。 また、位相差を伴わない地点差の要因として、各センサーの姿勢の違いも考えられる。一般に磁力計を設置する際、センサーのX軸を磁北がほぼ平行になるように調整するが、仮に磁北と完全に平行に設置できたとしても、各観測点で磁力計の設置時期が異なるため、いずれのセンサーも基本的には異なった姿勢にある。そこで一方の磁力計センサーを意図的に回転させた状態にして測定値を比較することで、地磁気変化特性の違いに対するセンサー姿勢の影響を検証する。


3.地磁気嵐の自動判別に向けた調査(その3)(令和7年度)

[担当者]:(〇が主担当)
○森永健司(技術課)、長町信吾、吉田昌弘(観測課) 飯塚ふうな(網走地磁気観測連絡事務所)

[概要]:
 地磁気嵐の判定及び通報業務はIGY(1957〜1958年)を契機に、観測課の当番業務として実施されている。しかしながら、当番業務は官執時間のみで、時間外(夜間17時〜翌08時30分)に発生した地磁気嵐に関しては、当番者出勤後(08時30分以降)まで地磁気嵐の情報が発信されない。
 近年、宇宙天気予報の重要性が増してきており、NICTでも2019年12月より24時間体制で宇宙天気予報及び宇宙天気情報を提供するようになったため、地磁気観測所からの地磁気嵐情報の発信の遅れは大きな問題となっている。 本年度は、昨年度の調査で作成した自動判別ソフトウェアを改良し、地磁気嵐の開始終了時刻の決定精度の向上、判定間隔の短縮を目標とする。


4.画像解析による光学式セオドライトの目盛読み取り(令和7年度)

[担当者]:(〇が主担当)
○吉武由紀、海東恵美、神谷亜希子、浅利晴紀(技術課)

[概要]:
 FT型磁気儀は、地磁気の偏角伏角測定器として1980年代に普及し、現在では世界中の地磁気観測施設にて絶対観測のために使用されている。一般的な測量用セオドライトやトータルステーションについては、角度読み取り機構がデジタル化され既に久しいが、非磁性の要件が伴う磁気儀には、分度盤を目視で読み取る光学式セオドライトが依然として使われている。近年では、非磁性エンコーダーを利用して電子式に改造された磁気儀も登場しているが、現時点では非常に高価なため普及しているとは言えない。今日でも、磁気儀を用いた観測ではマイクロメーターに投影された目盛の拡大像の目視によるアナログ読み取りが主流である。電子パネルに表示されたデジタル値を読む電子式と比べると、光学式では操作や読定に一定の習熟が要求される。
 本課題は昨年度に開始したが、画像収集の進捗が十分に得られず、結果として当初の目標を達成できなかった。収集した画像からOCRを用いた文字認識の試験を行ったが、度分秒のうち、最も大きく写る「度」の数字だけしか認識させられていない。今年度もOCRによる調査を行うが、画像からの角度の抽出を機械学習によるパターン認識による方法も試みる。


5.地磁気絶対観測における新方式磁力計の導入調査(令和7年度)

[担当者]:(〇が主担当)
〇平原秀行(観測課)、浅利晴紀、海東恵美(技術課)

[概要]:
 地磁気観測は、自動で行われる変化観測と、それを較正するため手動で行われる絶対観測から成り立っている。後者は、地磁気ベクトル3成分の絶対値を得るための観測であり、地磁気の大きさである全磁力、地磁気の向きである偏角および伏角の測定から構成される。全磁力の測定には、プロトン磁力計などのスカラー磁力計が、偏角と伏角の測定には、DIメータと呼ばれる磁気儀が用いられる。
 DIメータは、1軸磁力計と非磁性の経緯儀から構成される。磁力計のセンサは経緯儀の望遠鏡に搭載されており、その視軸方向の磁場成分を測定するようセンサ軸が調整されている。実際の観測では、複数の異なる姿勢で角度測定を行うことで偏角と伏角を得ることができる。
 既存のDIメータに使用されている磁力計は、いずれも外国の特定メーカーの製品に限られている。これらを搭載したDIメータはカスタマイズ性に乏しく、観測状況に応じた操作性においても問題を抱えている。
 DIメータの改良を目指す本調査では、JAXAが開発した宇宙機搭載用の基本波直交型フラックスゲート磁力計の導入を目標とする。小型で高性能なセンサを備える同磁力計は、DIメータに用いる一軸磁力計への転用可能性が見込まれる。これをDIメータ用に改修するにあたり、経緯儀への搭載方法や測定値の処理及び表示等を、絶対観測に適するように改良する。現用より使い勝手の良いDIメータの開発に成功すれば、観測における実用性だけでなく、取得データの信頼性等の品質の向上にも寄与すると期待される。

[共同研究に係る関係官署及び所外関係機関]
 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)


6.Solar Flare Effect(SFE)の自動検出に向けた基礎調査(令和7〜12年度)

[担当者]:(〇が主担当)
〇松下拓輝、櫻井友己(観測課)

[概要]:
 地磁気観測所では、比較的短周期の地磁気現象である、SSC, SI, Bay, SFE, Pc, Pi を当所の要領で定めた基準で読み取りを行い、その報告を定期的に行っている。この現象のうち、SFE は、Solar Flare Effect の略称で、太陽フレアに伴い発生する地磁気変化を指し、基本的にはSq 電流系を強める方向の地磁気変化として観測される。SFE は、太陽で発生した現象が最も早く地磁気の変化として現れるものといえ、太陽活動と地磁気の関係を知る上で、非常に重要な現象といえる。世界で初めてSFE が観測されたのは、1859 年の9月1 日と言われている*1,*2。当所では古くは1935 年に観測したSFE の報告*3があり、外部に公開しているリストとしては、計765 件(1957 年7 月~2024 年12 月)の報告がある。また、最近では太陽活動極大期ということもあり、多くのSFE が報告されている。
 現在、地磁気観測所では地磁気のデータを目視確認することにより、SFE を読み取っている。太陽フレアが発生すれば必ず検出されるわけでもなく、また変化の形状も現象ごとに異なるため、読み取りには十分な経験及び技術が必要となる。Curto らによってSFE の自動検出が試みられているが、テスト段階であることや、SFE が観測された観測点の位置とSFE の極性からのみの判断で、太陽フレアとの対応についてはあまり考慮されていない*4。そこで、本研究では、膨大な当所の報告事例に加え、海外の報告事例や観測データを太陽フレアのデータも含めて解析することで、SFE 現象に対する深い理解を得て、SFE の自動検出の実現を目的とする。

[参考文献]:
*1 Carrington RC. 1860. Description of a singular appearance seen in the sun on September 1, 1859. Month. Notic. Roy. Astron. Soc. 20: 13-15.
*2 Stewart B. 1861. On the great magnetic disturbance which extended from August 28 to September 7, 1859, as recorded by photography at the Kew Observatory. Philos Trans R Soc Lond 151: 423-430.
*3 Imamiti S. 1938. Variations of the earth magnetic field observed during so-called Dellinger effect of radio waves. Mem Kakioka Magn Observ I:13-19.
*4 Curto, J. J., Marsal, S., Creci, G., and Domingo, G.: Automatic detection of Sfe: a proposal, Ann. Geophys., 35, 799-804, https://doi.org/10.5194/angeo-35-799-2017, 2017.


7.南極昭和基地の地磁気データの品質改善(令和7〜8年度)

[担当者]:(〇が主担当)
○仰木 淳平、有田 真、屋良 朝之、北山 拓(観測課) 松浦 大輔、浅利 晴紀(技術課) 飯塚 ふうな(網走地磁気観測連絡事務所)

[概要]:
 昭和基地はオーロラ帯の直下に位置し、1959年から長期的に地磁気観測を継続している。これは観測点の少ない南極域において貴重であり、太陽地球系科学にとって非常に重要な観測点である。地磁気観測は、世界中に展開されている地上の観測点(精度・安定性・時間分解能に優れる)と人工衛星観測(空間分解能を補う)により、国際的な協力の下に行われている。その中でもデータ品質等の規格を満たした観測点はインターマグネット観測所(InterMagnet Observatory : IMO)に認定され、その観測データは様々な研究に利用されている。IMOへの認定には基準精度を満たした確定値(変化観測値に絶対観測による基線値を適用し、絶対値化したもの)を公開する必要がある。 IMOに認定され全球観測網に貢献することは、宇宙天気予報や地磁気全球モデルの精度向上に寄与し、地球環境の把握や地磁気全球モデルを利用した火山活動評価の精度向上にもつながる。 昭和基地では、昨年度までの調査研究により確定値を作成することはできたが、まだIMOに求められる精度を満たしていない。
 本研究では、次の各調査を行うことで昭和基地の地磁気データ品質の向上に取り組む。
 ・フラックスゲートセンサの傾斜補正の導入
 ・観測基線値の補間方法の改善によるデータ処理の高度化
 ・磁力計に混入している疑いのあるノイズの調査
 ・フラックスゲート磁力計の温度管理による機器の動作環境の改善
 ・車両や建築物による人工擾乱の調査
 またデータ処理システムの改良により、精度以外のIMO要件をクリアするとともに、自動化を進めて全体的な省力化を行う。


8.雌阿寒岳の長期観測データを用いた火山性全磁力変化抽出手法の検討(令和7年度)

[担当者]:(〇が主担当)
○増子徳道、浅利晴紀(技術課)

[概要]:
 地磁気観測所では雌阿寒岳ポンマチネシリ火口をターゲットとした全磁力観測を1992年に開始して以降、30年以上にわたり継続してきた。全磁力繰返し観測では1996年および2008年の噴火に伴って系統的な変化分布が観測され、全磁力連続観測では2008年噴火の前兆現象と考えられる変化が観測されるなどの成果が報告されている *1。
 今後の火山監視に資することを目的とし、本課題では雌阿寒岳の長期観測データを対象に、DI効果*2 および年周変化の推定および経年変化の調査、観測データから推定される熱消磁源についての調査、太陽活動に伴う1日より短周期のノイズの除去についての調査を行う。

[参考文献]:
*1 橋本 雅彦,森山 多加志,西村 三治,菅原 政志,有田 真,2009.雌阿寒岳の地磁気全磁力観測.月刊地球 31,693-698.
*2 浅利 晴紀, 増子 徳道, 2022. DI 補正法の実践的な適用に関する考察. 2022年 Conductivity Anomaly 研究会論文集, 13-20.
*3 浅利 晴紀, 2025. 雌阿寒岳における全磁力連続観測を用いた熱消磁源の時間発展の評価.2024年 Conductivity Anomaly 研究会論文集, 印刷中.
*4 Fujii, I., Kanda, W., 2008. New procedures to decompose geomagnetic field variations and application to volcanic activity, Geophys. J. Int., 175, 400-414.
*5 高橋 幸佑, 2017. 雌阿寒岳2008 年噴火の前兆現象として観測された地磁気変動, 日本火山学会講演予稿集 2017 年度 秋季大会, A3-07.


9.表層磁気分布の影響による全磁力変動の調査(令和7年度)

[担当者]:(〇が主担当)
○笹岡雅宏、浅利晴紀(技術課)

[概要]:
 地中の磁気の大きさが気象の変化に伴い変動することにより地磁気観測に影響することが指摘されており、特に地中温度の季節変化に対応する地磁気変動が知られている*1 。これは、観測点付近における表層の砂鉄や岩石のもつ磁化の大きさが、地中温度に依存するためであり、火山における地磁気観測点では地磁気の顕著な季節変化がしばしば観測される。一方、伊豆大島三原山火山北側に配置した全磁力観測点付近の表層は透水性のある多孔質のスコリア及び岩石で覆われており、地中を透過する天水により地中温度が変化することが推察された。昨年度までに、地表面からの熱伝導のほか降雨の表層透水、並びに地中間隙内の冷気沈降に伴う熱対流による温度変化をも考慮した地中温度の計算手法を開発し、これまで原因が不明であった全磁力のステップ様の変化を含む季節変化の補正が可能であることを示した*2 。しかし、この全磁力補正量は推定地中温度に依存した岩石磁気の変化により地上の全磁力観測への影響が見込める前提の見積りであり、現地の岩石資料の磁化強度の温度特性がこの要件を満たすのかどうか検証が必要であった。
 本研究課題では、伊豆大島全磁力観測点付近のスコリア及び岩石資料を採取し、その磁化の温度特性を測定し、推定地中温度による磁化の変化が地上の全磁力観測に影響量を試算し、地下の岩石磁気の分布のモデルを推定する。また、女満別の地磁気観測値(F or H)の季節変動についても、先行研究*3 において示された女満別観測施設構内における土壌磁化の温度特性を参考に、推定地中温度に基づいて調査する。

[参考文献]:
*1 Utada et al., A study of annual variations in the geomagnetic total intensity with special attention to detecting volcanomagnetic signals, Earth Planets Space, 52, 91-103, 2000.
*2 笹岡雅宏, 浅利晴紀, 伊豆大島における全磁力変動に係る調査, 2025年 Conductivity Anomaly研究会論文集, 2025(投稿中).
*3 三島ほか, 地磁気観測所構内の土壌磁化特性と地磁気観測値に対する影響, 2011年 Conductivity Anomaly研究会論文集, 2011, 61-66.


10.インターマグネット推奨の新しいリアルタイム伝送方式の予備調査(令和7年度)

[担当者]:(〇が主担当)
○神谷亜希子、浅利晴紀(技術課)

[概要]:
 当所はインターマグネット※の構成員であり、柿岡・女満別・鹿屋はその認定観測所として登録されている。インターマグネットではリアルタイムデータの伝送方式について、現在はemail、ftp、rsync を利用しているが、今後はMQTT プロトコルへの移行を予定している。京都GIN を始めとしたIMO にも移行が求められることから、京都大学の今城助教と連携し、MQTT プロトコルの実装実験を行い、地磁気観測総合処理装置にも導入が可能であるかの予備調査を実施する。

[共同研究に係る関係官署及び所外関係機関]:
 京都大学地磁気世界資料解析センター 今城峻 助教


11.女満別観測施設構内における融雪期の全磁力変化(令和7〜8年度)

[担当者]:(〇が主担当)
○下川 淳、平原 秀行、有田 真、仰木 淳平(観測課) 飯塚 ふうな(網走地磁気観測連絡事務所)

[概要]:
 毎年、女満別観測施設構内において、融雪期(3月頃〜5月頃)に絶対観測室のプロトン磁力計と連続観測施設のオーバーハウザー磁力計の全磁力差に緩やかな単調変化が観測されている。
 この融雪期における全磁力変化の要因として、融雪による地中温度の変化、植生による地表面熱収支への影響、また磁力計と積雪箇所までの距離などが可能性として挙げられる。
 本調査では、観測点近傍における植生の有無(植生がない場合、表面は裸地面)、磁力計と積雪箇所までの距離に着目し、数か所で融雪期における地中温度を直接測定する。地中温度、植生の有無、磁力計と積雪箇所までの距離から、融雪期における全磁力変化を定量的に評価することを試みる。


12.GNSS真方位観測の業務化に向けた調査(令和7〜8年度)

[担当者]:(〇が主担当)
○松下拓輝、飯塚ふうな、仰木淳平、平原秀行、有田真、下川淳(観測課) 松浦大輔、谷口秀隆、森永健司(技術課)

[概要]:
 地磁気を構成する要素の一つに「偏角」があり、これは真方位(地図の北)と磁北(方位磁石が指す北)のズレの角度を表す。通常、地磁気の絶対観測で偏角を算出する際には、事前に別の方法で観測した真方位角を用いる。地磁気観測所では、この真方位角を北極星観測により求めているが、観測機会の制約(夜間かつ晴天)や天体の軌道計算ソフトの時刻のズレに伴う誤差といった課題があり*1、特に人員が少ない女満別や鹿屋において、良質な真方位角ひいては、絶対観測の結果が担保できなくなる恐れがある。 令和6年度に実施した調査研究「新たな新方位観測方法の検討」では、GNSSによる真方位観測方法(案)を定め、実際に柿岡、女満別、鹿屋で観測を実施した。そこで以下2点の課題が挙げられた:
 ・GNSSによる真方位観測のいち構成である水平角観測について、必要精度を得るための観測回数の検証
 ・GNSSで得られた真方位角と天測による真方位角との差の要因と考えられる鉛直偏差についてのより深い検証および考察
 本課題では、この2つの課題のうち、前者に焦点を当て、必要な水平角観測の回数について主に検証するとともに、前年度に引き続き、GNSSによる真方位角観測を実施し、経年に伴うGNSS観測の安定性などを評価する。

[参考文献]:
*1 有田真, 長町信吾, 仰木淳平. 2022. MICA で使用するΔT について, 地磁気観測所所内技術資料 2022 年10 月号


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