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令和6年度地磁気観測所調査研究計画一覧

重点課題

1.電磁気による火山活動評価の高度化に向けた調査(令和5〜7年度)

[担当者]:(〇が主担当)
○増子徳道、山崎貴之、浅利晴紀、谷口秀隆(技術課)、大竹和生、長町信吾、北山拓、松下拓輝、櫻井友己、松浦大輔、飯塚ふうな(観測課)

[概要]:
 火山活動の活発化に伴う全磁力変化の観測事例が多数報告されている。これまでに当所が雌阿寒岳や草津白根山で実施してきた全磁力観測により得られた成果は、火山監視に対する全磁力観測の有効性を示している。これら全磁力変化は、火山体浅部熱水系の状態変化に起因する熱磁気効果と密接に関係していると推定されており、水蒸気噴火の発生予測に貢献することが期待されている。平成26年御嶽山噴火災害を契機に水蒸気噴火の発生予測への社会的ニーズが高まり、気象庁地震火山部では、平成27年度から水蒸気噴火の前兆を早期に捉えるための新たな観測手法のひとつとして全磁力観測に着目するとともに、その他の多項目観測データの統合解析による火山活動評価手法の高度化に取り組んでいる。
 本調査研究では、地震火山部による火山業務改善の取り組みを技術的に支援するため、火山活動の監視および評価手法の高度化に係る技術開発に引き続き取り組む。
 当所が従前より全磁力連続観測を実施している雌阿寒岳、草津白根山、伊豆大島等に加えて、地震火山部が平成27〜30年度以降に本庁地震火山部が連続観測施設を整備した樽前山、吾妻山、安達太良山、御嶽山、九重山、霧島山えびの高原(硫黄山)(以下、本庁整備6火山)周辺を対象に、これまでの観測成果のとりまとめ、ノイズ低減手法及び観測測器の技術開発、常時観測化を見据えた効果的な観測のあり方、および観測安定性の検討を引き続き進める。


2.南極昭和基地の地磁気データの絶対値化に向けた調査(令和3〜6年度)

[担当者]:(〇が主担当)
○仰木淳平、松浦大輔、飯塚ふうな、北山拓、平原秀行、山際龍太郎(観測課)、屋良朝之、浅利晴紀(技術課)

[概要]:
 オーロラ帯直下であり、また観測点密度の低い南極域の地磁気絶対値の毎秒データを作成・公開することは宇宙天気予報や地磁気全球モデルの精度向上に寄与し、地球環境の把握や地磁気全球モデルを利用した火山活動評価の精度向上にも貢献する。
 地磁気観測データを絶対値化するためには連続観測値の適切な較正や人工的な擾乱の把握が必要であり、その手法について調査する。
 昭和基地は1960年に地磁気観測を開始し、観測点の少ない南極域において長期的に観測を継続している貴重な観測点である。観測項目は、ひと月に1度手動で地磁気の向きと大きさを測定する地磁気絶対観測と地磁気3成分の変化を24時間365日連続で自動測定する地磁気変化観測がある。それぞれの観測結果は独立に公開されており、絶対観測の結果を使って変化観測による連続観測値を較正する絶対値化は行われていない。そのため、本研究では連続観測値の絶対値化に向け観測手法の変更やその影響等について調査を行う。
 昭和基地の地磁気連続観測値を絶対値化することは、科学と観測点運営の両面でメリットがある。科学的なメリットは、他の地磁気観測点や他の観測項目との比較が容易になることである。特に近年、人工衛星観測と地上観測をあわせて解析し、地磁気の全球モデルの開発等の研究が行われているが、観測点密度の低い南極域において、昭和基地のデータが利用できるようになるとモデルの精度向上につながる。観測点運営上のメリットは、効率的に絶対観測を行えるようになることである。現在はその月の代表値(磁気圏・電離圏等による影響の少ない主磁場の値)を得るため、宇宙天気予報を参考に、地磁気活動が静穏と予想される日時に絶対観測を行うこととしており、直前にならないと計画を立てることができない。また、地磁気活動が活発になると予想されていない場合でも、実際に観測に適した状況になるかはわからず、また、観測中に活発になることもあり、観測を延期等せざるを得ないこともある。絶対値化した連続観測値から静穏な状態を抜き出して月の代表値を計算できるようになれば、地磁気の活動状況に関わらず絶対観測を行うことができ、観測隊員の負担を大きく減らすことができる。
 連続観測値を絶対値化するために、絶対観測の簡略化と高頻度化の試験を行い、観測隊員の負担を増やさずに較正の精度を確保できるか確認する。簡略化の手法として弱磁場方式を導入し、現行のひと月に1度のゼロ磁場方式に加えてひと月3回程度の弱磁場方式の観測を行い、較正の精度や手法の違いによる影響を調査する。また、試験的に連続観測値を絶対値化し、静穏な状態を抜き出して計算した代表値と従来の方法による代表値を比較し、新しい方法を採用できるか評価する。


基礎課題

1.機械学習によるK指数判定手法の開発(令和6年度)

[担当者]:(〇が主担当)
○長町信吾(観測課)

[概要]:
地磁気変動の活動程度を表す指数のひとつにK指数がある。1日を3時間ごとの8区間に分け、各区間において地磁気の変動の振幅を準対数的に0〜9の10階級で評価するもので、地磁気観測所では柿岡、女満別、鹿屋の3地点のK指数を公表している。K指数を測定するためには、実際の地磁気変化から、想定される日変化を取り除かなくてはならない。1930年代にはじまるK指数の黎明期から、観測者の経験に基づいて推定された日変化曲線をアナログ記録に鉛筆等で書き入れ、スケールを記録紙に当てて指数を読み取るという手法(以下、ハンドスケーリングと呼ぶ)で行われていたが、観測データがデジタル値で取得できるようになった1980年代以降には計算機による手法がいくつか開発された*1。ハンドスケーリングには、読み取りに手間がかかること、観測者の主観を完全に排除できないこと、担当者が変更になった場合の判定基準の確実な引継ぎなどの課題があり、計算機による判定が採用できればそれらの課題が解決されるものと期待されたが、過去に当所行われた試験*2,*3では満足のいく正答率を得ることができず、現在でも報告値はハンドスケーリングによる読み取り値を採用しており、計算機による読み取りは速報的な判定に利用するのみにとどまっている*4。
 これまでの計算機による手法は、何らかの数学的アルゴリズムを用いて日変化を推定するものであった。しかし、K指数として計測されるべき地磁気変化は、数分から数日間という非常に広い周波数領域にまたがるため、日変化と数学的に分離することが難しい。このため、計算機による日変化の推定と熟練の観測者の経験に基づく推定との間に大きな乖離が生じることがあり、これが計算機による手法では満足いく正答率が得られなかった大きな理由である。本研究では、従来の数学的手法による日変化推定の方法から離れ、熟練の観測者が持つ経験則を機械学習によって計算機上で再現するという新しい試みによって、精度の高いK指数判定を目指す。

[参考文献]:
*1 Menvielle, M., Papitashvili, N., Hakkinen, L., Sucksdorff, C., Computer production of K indeces: review and comparison of methods. Geophys. J. Int. 123, 866-886, 1995
*2 山田雄二,K指数決定のデジタル化について─LRNS法の場合─,地磁気観測所技術報告,37,58-68,1997
*3 小池捷春,玉谷智佐,長谷川一美,デジタルK採用に関する調査─試験運用結果とその評価─,地磁気観測 所技術報告,38(1),1-10,1998
*4 長町信吾,K指数速報値を計算機で算出する新しい手法,地磁気観測所テクニカルレポート 第12巻第1,2号,1-9,2015


2.表層透水を伴う地中温度の計算手法の開発(その2)(令和6年度)

[担当者]:(〇が主担当)
〇笹岡雅宏、浅利晴紀(技術課)、下川淳(網走地方気象台)

[概要]:
 地磁気観測には、地中温度の変化に対応する成分がよく含まれる。これは、観測点における表層の砂鉄や岩石のもつ磁化の大きさが、地中温度に依存するため観測されるものである。このような地中温度変化は、主に地表面から地中への熱伝導に起因する。火山や女満別観測施設における地磁気観測点では地磁気の季節変化が観測されるが、地中温度の季節変化が原因であることが知られている。一方、火山表層のスコリア層には透水作用があり、地中を透過する天水により地中温度が変化することが推察される。昨年度は、地表面温度のほか降雨の表層透水をも考慮した地中温度の計算手法の開発のために、地中への熱伝導に加えて表層透水による熱接触を組み合わせた熱平衡式の使用を試みた。伊豆大島にみられた夏季の降雨期間の地磁気全磁力のステップ的な変化と調和的な地中温度の計算結果が得られ、仮説として、スコリア層の透水による熱接触のため層内岩石が温度変化することにより全磁力変化をもたらしている可能性が示唆された。
 地中温度の計算には、地表面温度の推定値の較正が必要であるが、昨年度は適当な較正値が無かったため地表面温度は悪天(日照無、強風)の条件下で気温とほぼ等しいと仮定した。今年度は、地表面温度の推定値の較正については、サーモカメラを使用して地表面温度の実測値を利用したい。また、モデル計算により地中温度変化から全磁力変化を見積り、伊豆大島において夏季に観測された全磁力値を補正することにより、本仮説の実証を試みたい。


3.地磁気観測施設の構内における各観測点の地磁気変化特性に関する調査(その4)(令和6年度)

[担当者]:(〇が主担当)
〇浅利晴紀(技術課)、松浦大輔、屋良朝之、森永健司(観測課)

[概要]:
 地磁気観測所では柿岡、女満別、鹿屋、父島における地磁気変化を連続観測している。各観測施設内で観測される地磁気変化はほぼ同じであると期待されるが、構内で近接する主測器と副測器の間にも地磁気現象ばかりか日変化においても明瞭な差がある。地点間距離が約3.4kmの鹿屋と祓川では外部擾乱変動に多少の地点差もあろうが、2015年6月22日に発生した磁気嵐においては、鹿屋と祓川の振幅の差よりも、むしろ女満別構内に設置された主測器と副測器の振幅の差の方が大きいことが明らかになった。各地点固有の誘導磁場が影響しているものと考えられる。
 令和4年度までの調査研究(その1、その2)では、観測点の地磁気変化特性の相違を調べるため、各時系列から抽出した1時間変化量などをデータセットとして統計調査を行った。その結果、女満別・鹿屋の一部観測点では、変化量そのものと変化量の地点差の間に単純な線形関係を見出せず、これは温度変化などを考慮しても改善しなかった。各地点の地磁気変化特性に異なる周波数依存性があることが示唆された。
 そこで昨年度の調査(その3)では、各地点の地磁気変化特性の差を調べるために周波数解析を始めた。鹿屋(kny00,hrg)と女満別(mmb00,mmb01)それぞれ2観測点について、外部擾乱に対する応答の周波数特性の相違を明らかすることを目指して夜間データを収集し、それらのパワースペクトル推定を行った。その結果、周波数帯によっては顕著な振幅比があることから観測点固有の変化特性があることがわかった。そこで、本年度は位相特性の違いを調査するほか、観測点間の伝達関数を推定する。両観測施設において、リファレンス観測点として許容される地磁気変化の違いを明瞭にし、新たに副観測点や構外比較観測点を新設する際の基礎資料とする。


4.地磁気嵐の自動判別に向けた調査(その2)(令和6年度)

[担当者]:(〇が主担当)
〇森永健司、吉田昌弘、飯塚ふうな、長町信吾(観測課)

[概要]:
 地磁気嵐の判定及び通報業務はIGY(1957年)を契機に、観測課の当番業務として実施されている。しかしながら、当番業務は官執時間のみで、時間外(夜間17時〜翌08時30分)に発生した地磁気嵐に関しては、当番者出勤後(08時30分以降)まで地磁気嵐の情報が発信されない。
 近年、宇宙天気予報の重要性が増してきており、NICTでも2019年12月より24時間体制で宇宙天気予報及び宇宙天気情報を提供するようになったため、地磁気観測所からの地磁気嵐情報の発信の遅れは大きな問題となっている。 本年度は、昨年度の調査で作成した自動判別ソフトウェアを改良し、地磁気嵐の開始終了時刻の決定精度の向上、判定間隔の短縮を目標とする。


5.新たな真方位観測方法の検討(令和6年度)

[担当者]:(〇が主担当)
〇松下拓輝、仰木淳平、松浦大輔、飯塚ふうな(観測課)、浅利晴紀(技術課)

[概要]:
 地磁気を構成する要素の一つに「偏角」があり、これは真方位(地図の北)と磁北(方位磁石が指す北)のズレの角度を表す。真方位を調べることは通常容易ではないので、方位磁石と偏角の値を使って、真方位を調べることが一般社会でよく行われている。一方で、地磁気観測所では、真方位を使って偏角を調べており、通常調べるのが容易ではない真方位を北極星観測により求めている。しかしながら、この方法は、観測機会の制限(夜間かつ晴天)や天体の軌道計算ソフトの時刻のズレに伴う誤差といった課題があり、特に観測リソースの小さい女満別や鹿屋において、良質な真方位の観測が保てなくなる恐れがある。
 そこで、本課題では、昼間でも観測可能なGNSS測位及び太陽天測による方法のそれぞれの精度評価及び北極星観測との比較を行う。
 これにより、現在のように限られたリソースでも良質な観測成果の担保が期待される。また、観測機会の制限が少なくなることで、真方位観測の活用の幅が広がり、例えば、夜間観測が難しい火山等でも、偏角の情報が得やすくなると考えられる。


6.FT型磁気儀における観測方法と基線値算出方法の再考(令和6年度)

[担当者]:(〇が主担当)
〇松下拓輝、飯塚ふうな、松浦大輔(観測課)、浅利晴紀(技術課)

[概要]:
 地磁気観測所では、FT型磁気儀を用いて基線値を求める際に、望遠鏡の向きを南北上下に向けた一連を1回として計2.5回から4セットの基線値を求めている。2.5回とは、1回の半分を次のセットに流用していることを意味しており、つまり観測値の重複を許している。本来は重みづけをするなどして平均を求めるべきであるが、なされていない。他に、トータルの姿勢数を12回にし、独立した3セットから単純平均で基線値を求めるといった方法も考えられるが、観測時間が増えてしまうという問題もある。また、令和5年度の調査研究課題「次期標準磁気儀設計に向けた予備調査」において、絶対観測の誤差を考慮して基線値を決定する必要性が指摘されており、基線値の算出方法にも課題がある。
 このような背景から、本課題では、@観測手順を再考し必要な手順にしぼり、従来と変わらない労力で独立した観測値セット得ること、A観測誤差を考慮した基線値算出方法として、MCMC法を用いたベイズ推定が有効かを評価すること、の2点を軸に調査する。


7.インターマグネット確定毎秒値データチェック手法の開発(令和6年度)

[担当者]:(〇が主担当)
○神谷亜希子、浅利晴紀(技術課)

[概要]:
 当所は地磁気観測の国際共同事業であるインターマグネット(国際リアルタイム地磁気観測ネットワーク)に加盟しており、柿岡・女満別・鹿屋はその認定観測所として登録されている。インターマグネットでは、確定データセットを年次に出版するにあたり、認定観測所から提供される確定データの品質をチェックしており、加盟機関の有志メンバーから成る「相互チェックタスクチーム」がこれを担っている。当所は令和2年度より同チームに加入し、確定毎分値データについては相互チェックを進めているところ、毎秒値データセットも新たに出版するというインターマグネットの方針に従い、毎秒値の相互チェックも進めていくこととなった。毎秒値チェックの方法についても大まかなガイドラインしか与えられていないため、本課題では当所での具体的なチェック手法について検討を行う。


8.宇宙天気災害に関連する磁気嵐の特徴について(令和6年度)

[担当者]:(〇が主担当)
○吉田昌弘、長町信吾(観測課)

[概要]:
 アメリカ・ニュージャージー州、カナダ・ケベック、モントリオール周辺で9時間に及ぶ停電が発生し、600万世帯に影響が及ぶ災害が発生している*1,*2,*3。他にもHF帯(短波)通信・放送や航空機・遠洋漁業、GPS等の通信障害*4、衛星の落下が発生している*5。これら災害の原因として、太陽から突発的に惑星間にプラズマが放出されるコロナ質量放出(以下CMEとする、CME :Coronal Mass Ejection)により、高速となって地球磁気圏に到来する太陽風の影響が考えられている*5。
 上述のようにCMEによる災害は世界各地で発生しており、災害発生と同時に磁気嵐が観測されている。この磁気嵐の発達に関わるリングカレントの活動を表す指標として、Dst指数が用いられている。Dst指数指定観測所の一つが柿岡(日本)となっているため、柿岡にて磁気嵐を観測することは、災害を把握するという観点からも重要な意味を持つ。
 しかしながら地磁気観測所では、これまで宇宙天気現象に関連した災害発生時の磁気嵐について詳細な調査は実施されていない。また、当所における防災情報を充実させるためにも、宇宙天気現象による災害と磁気嵐との関連について整理しておくことは必要である。
 そこで本課題において、文献・NICT(情報通信研究機構)等のHPから宇宙天気現象による災害を参照し、災害発生時における磁気嵐の特徴を調査する。

[参考文献]:
*1 https://www.nhk.or.jp/bousai/articles/21629/
*2 https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/pdf/006_02_02_12.pdf
*3 D.H.Boteler(2019)A 21st Century View of the March 1989 Magnetic Storm,Space Weather,10.1029/2019SW002278,1427-1441.
*4 亘慎一(2006)2.宇宙環境擾乱による障害と宇宙天気予報,J.Plasma Fusion Res. Vol.82,No.11,739-744.
*5 R.Kataoka et al.,(2022)Unexpected space weather causing the reentry of 38 Starlink satellites in February 2022,J.Space Weather Space Clim,12,41.


9.画像解析による光学式セオドライトの目盛読み取り(令和6年度)

[担当者]:(〇が主担当)
○吉武由紀、海東恵美、神谷亜希子、浅利晴紀(技術課)

[概要]:
<現状と課題> FT型磁気儀は、地磁気の偏角伏角測定器として1980年代に普及し、現在では世界中の地磁気観測施設にて絶対観測のために使用されている。一般的な測量用セオドライトやトータルステーションについては、角度読み取り機構がデジタル化され既に久しいが、非磁性の要件が伴う磁気儀には、分度盤を目視で読み取る光学式セオドライトが依然として使われている。近年では、非磁性エンコーダーを利用して電子式に改造された磁気儀も登場しているが、現時点では非常に高価なため普及しているとは言えない。今日でも、磁気儀を用いた観測ではマイクロメーターに投影された目盛の拡大像(図1)の目視によるアナログ読み取りが主流である。電子パネルに表示されたデジタル値を読む電子式と比べると、光学式では操作や読定に一定の習熟が要求される。
<計画> 昨今目覚ましく発展するAI画像解析技術を活用し、光学式セオドライトの安価な電子化を試みる。人間による目盛の数値読み取り(マイクロメーター内部の分度盤と副尺の目視による読定)を画像解析で再現するため、本計画では比較的簡単に導入できる画像解析クラウドサービスを利用する。目盛の画像から測定値を読み取る学習モデルを生成し、その正答率をどこまで高められるか調査する(業務実装には当然100%の正答率が要求される)。
<期待される効果> 磁気儀の目盛読み取りが電子化された(正答率100%の理想的な画像解析が実現した)場合、絶対観測において次のようなメリットが得られる。@読定値の自動記録も可能となり、観測の時間と労力を短縮できる。A目盛読み取りの個人差を解消できる。B読定の際に観測者自身の重心移動が不要となり、地盤が不安定な地点での観測精度が向上する。なお、小型カメラや伝送用モジュールに磁性があったとしても、これらが望遠鏡に固定されている限り偏角伏角測定影響しない(1軸磁力計の出力に一定のオフセットを生成するのみ)。


10.1955年以前のブロマイドデータ数値化に向けた調査(令和6年度)

[担当者]:(〇が主担当)
○飯塚ふうな、森永健司、長町信吾、吉田昌弘、松浦大輔(観測課)、増子徳道、海東恵美、吉武由紀(技術課)

[概要]:
 100年を超える歴史を持つ地磁気観測所においてもデジタル値として観測されたデータは40年余りに過ぎず、地磁気観測記録の多くはブロマイド印画紙のアナログマグネトグラムとして蓄積されている。平成20年度から、これらをデジタルデータに変換する手法の開発、ブロマイド記録の数値化、ブロマイド印画紙の画像データの作成・公開作業を行っており、令和5年度時点で、柿岡1956〜1983年、女満別・鹿屋1973〜1984年のブロマイド記録の数値化が完了している。
 来年度以降、柿岡の1955年以前のブロマイド記録のデジタル化作業を実施予定であるが、当時のブロマイド記録の品質にはばらつきが見られ、また、数値化に必要な情報が揃っていない可能性もある。そこで本調査研究では、デジタル化作業に必要な当時の記録の特徴や品質、基線値・寸法値などの変換パラメータの調査を行う。また、調査結果をもとに読取り・数値化プログラムの改修を繰り返し、1955年以前のブロマイド記録の数値データ化までの一連の作業手順を確立させる。さらに、ブロマイド記録のデジタル化を行った各年代の時刻分解能を調査し、印画紙の収縮等に起因する年代毎の違いや、数値化したデータの分解能の違いをまとめたい。



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