地磁気観測所は観測を開始してからまもなく百年を迎えるが、データが蓄積されるにしたがい地磁気の長期的な変化に関する研究分野での需要も増えてきている。初期の柿岡の地磁気データを同時期の外国データと比較すると、偏角(D成分)は比較的安定しているが、水平分力(H成分)と垂直分力(Z成分)には時折不自然な変化(ドリフト)が見られることがある。
地磁気観測は、地磁気の変化部分を連続して記録する変化観測と、それを零からの絶対値に較正するための絶対観測(数日ごとに実施)との組み合わせで行なわれており、上記のドリフトは、当時の吊り磁石式変化計が設置後安定するまで時間を要したことや温度係数が非常に大きかったこと、また絶対観測による基線値の較正も不十分であったことなどが要因と考えられる。このことは、基線値計算に使う常数の寸法値や温度係数などの算出方法が年毎に変遷していることからも推測され、全期間統一した処理方法により見直しを行なうことで、データの品質が改善される可能性があることを示唆している。
このことから、少しでも信頼性の高い長期間のデータを整備することを目指して、観測資料が現存する関東大震災以降の1924年から絶対観測測器が更新される1947年までの24年間にわたる地磁気観測値(H成分)について、図1に示したデータ処理の手順により再計算を実施することにした。
上記の検討により、基線値精度は各段階で改善されたものと考えられる。ただし、最終的には再計算された毎時値(修正毎時値)による評価を待つことになるため、今回の調査に引き続き次の調査を進める必要がある。