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平成19年度調査研究のトピックス(4)

過去の観測データ品質に関わる基本的な調査

はじめに

地磁気観測所は観測を開始してからまもなく百年を迎えるが、データが蓄積されるにしたがい地磁気の長期的な変化に関する研究分野での需要も増えてきている。初期の柿岡の地磁気データを同時期の外国データと比較すると、偏角(D成分)は比較的安定しているが、水平分力(H成分)と垂直分力(Z成分)には時折不自然な変化(ドリフト)が見られることがある。

図1 地磁気観測データの処理手順
図1 地磁気観測データの処理手順   [拡大図

地磁気観測は、地磁気の変化部分を連続して記録する変化観測と、それを零からの絶対値に較正するための絶対観測(数日ごとに実施)との組み合わせで行なわれており、上記のドリフトは、当時の吊り磁石式変化計が設置後安定するまで時間を要したことや温度係数が非常に大きかったこと、また絶対観測による基線値の較正も不十分であったことなどが要因と考えられる。このことは、基線値計算に使う常数の寸法値や温度係数などの算出方法が年毎に変遷していることからも推測され、全期間統一した処理方法により見直しを行なうことで、データの品質が改善される可能性があることを示唆している。

このことから、少しでも信頼性の高い長期間のデータを整備することを目指して、観測資料が現存する関東大震災以降の1924年から絶対観測測器が更新される1947年までの24年間にわたる地磁気観測値(H成分)について、図1に示したデータ処理の手順により再計算を実施することにした。

図2 各観測基線値のバラツキ
図2 各観測基線値のバラツキ(石室期間:1924年〜1932年)
一回の絶対観測では数回の観測を行い、それぞれについて観測基線値を算出している。ここでは、その平均値とそれぞれの観測基線値との偏差を分布図として示した。

結果

  1. 絶対観測値の算出式に用いる磁石の常数(P値)は、当時の方法では毎回の測定値を用いていたが、この常数は原理的にそれほど変動するものではないと考えられるので、再計算では年平均値を用いることにし、毎回の測定値の誤差によるばらつき除くことができた。
  2. 絶対観測野帳をはじめ、原簿の計算チェックを計算機で行った。それによって当時の手計算によるミスを修正することができた。
  3. 変化観測では地震などで像(記録軌跡)の位置に段差が生じることがあり、これをギャップと称しているが、今回は全期間のギャップをブロマイド記録紙より再点検を行い、設置時から累積した累積ギャップ表を作成した。これをもとに変化計の長期安定性を評価した結果、設置当初の1〜2年を除き連続して解析できることが分かった。
  4. 像の位置座標による感度の変化の関数(a-factor)を再計算し、これを考慮した寸法値を用いることで、より正確な基線値やギャップ量を算出することができた。
  5. この寸法値を用いて観測基線値を再計算し、そのばらつき(図2)の分布から±15nT以上離れたものは問題ありとして絶対観測値の再精査を行ない採用・不採用を判定することができた。
  6. 観測基線値にギャップを補正した計算基線値と室温との関係を調べたところ、相関(B-T図)は非常に高いことが分かり、逆にこの関係によって観測基線値の評価を行うことが可能となり、変化計の温度係数も精度良く決定できた。
  7. 採用基線値は計算基線値を平滑化して決定するが、赤池−ベイズの方法(Akaike,1980)で平滑化し、より客観的な採用基線値を求めることができた(図3)。
図3 温度補正前後基線値
図3 温度補正前の計算基線値(緑色) と 温度補正後(青色) の採用基線値 (朱色)は観測室(変化計室)の温度

まとめ

上記の検討により、基線値精度は各段階で改善されたものと考えられる。ただし、最終的には再計算された毎時値(修正毎時値)による評価を待つことになるため、今回の調査に引き続き次の調査を進める必要がある。

  1. 毎日基線値の算出過程の検討。
  2. 修正毎時値の算出および品質改善の評価。

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