研究プロジェクト「西南日本の比抵抗構造」は、西南日本の地殻/マントル内流体分布と地震/火山活動の関係を解明するため、隠岐島から四国に達する測線上の海底と陸上において電磁気観測を実施し、山陰西部の総合的な比抵抗断面図を求めることを目的としたもので、京都大学防災研究所を主体に多数の大学など関係機関が参加して実施している。
その一環として、当所は2008年に輪島、白川、上宝、大鹿(図1)において地磁気の絶対観測を実施した。これらは、東京大学地震研究所が中心となって展開している中部日本MT測線の観測点である。この絶対観測では、地磁気の偏角の観測の際に、新たな手法として携帯型GPS受信機を利用した真方位補正角の算出を試みたので、以下でその手法について述べる。
従来、偏角の絶対観測では、日中に磁気儀(非磁性の経緯儀に磁気検出用のフラックスゲート磁力計を搭載したもの)を用いて、地磁気の方向と方位標(方位の基準となる目標物)の角度の観測を行い(写真1)、夜間に北極星等の星を観測して地理上の北と方位標の角度を求め、その角度(地磁気観測所では真方位補正角と呼んでいる)を補正して偏角を求めている(図2)。この方法は、雲があって星が見えないときには実施できないため、偏角の絶対観測が天気に左右されることになる。また日周運動をする星を観測することから、ある程度の観測技術が必要となる。そこで、これらを改善するためにGPS受信機で絶対観測点と方位標の緯度・経度を測定し、絶対観測点から見た方位標の真方位補正角を、その緯度・経度から計算によって求めるという方法を試みた(図3)。観測は8月22日から26日に行った。
実際の観測では、GPS受信機による緯度・経度の測定誤差が、なるべく影響しないように、絶対観測点と方位標の距離を可能な限り長く取った。それぞれの点ではGPSの測定を20分間行い、国土地理院の電子基準点データを用いて後処理ディファレンシャル補正を施した。2点間の距離と方位角は、国土地理院がホームページで公開している計算ソフトで求めた。今回の絶対観測で星による観測ができたのは大鹿観測点のみであったが、北極星による観測とGPSによる観測で、真方位補正角の差は、絶対観測点と方位標の距離が約1.5kmの場合で11秒、距離が約3.6kmの場合で18秒となり、いずれもGPSの結果の方が北極星の結果より補正角が大きかった。今回のGPSによって求められた真方位補正角は、おおむねこの程度の精度で測定されたものと考えることができる。手法にともなうズレは、方位標測定時に磁気儀の傾斜補正を行わなかったことなどが原因と考えられ、観測手法の改良・工夫をすることで精度の向上が望める。GPS受信機を用いた偏角の絶対観測は、他機関においても前例が無い。この方法が確立されれば、天気に左右されることなく絶対観測が実施できるようになり、また観測も容易になると考えられる。