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平成26年度調査研究のトピックス(4)

津波の誘導磁場を利用した津波観測と予報等への応用

研究代表者:舘畑 秀衛

意外なことですが、津波は発電機と電磁石の性質を持っています。

最初に津波が発電機の性質を持つことを説明します。津波によって海水が動かされると、上から貫く地球磁場Fのために起電力Eが生じます(図1)。この現象は、ファラデーの電磁誘導の法則と呼ばれ、発電機の原理になっています。


図1

図1  地磁気と津波とその誘導電流
 F;地球磁場、J;津波による誘導電流、b;誘導電流による2次的誘導磁場。津波はxy平面のx方向に進行している状態を示しています。

海水は電気を良く通しますので、電圧Eに対応して電流Jが流れます。海水の鉛直断面積1m2当り、1〜5μA程度の弱い電流ですが、津波はスケールの大きな自然現象ですので、水深1000m、横1kmの鉛直断面積を通過する総電流は1A以上になることもあります。

次に津波が電磁石の性質を持つことを説明します。電流Jは、さらに誘導磁場bを発生させ、図1の様に津波(電流)を中心にして磁力線が空中に広がります。大きな津波の場合は、陸上から誘導磁場bを観測することも可能です。


図2

図2  父島観測点で観測された誘導磁場と父島二見港検験所で観測された津波記録
 青色で津波の記録、赤色で地磁気鉛直成分(Z)を示します。


それぞれの波形は似ていますが、津波より誘導磁場の方が約20分早く始まっています。津波が来るよりも早く、それが観測できるなら、津波防災に大変役立つ情報です。誘導磁場が津波よりも早く現れる理由を調べるため、津波による海水流動の数値モデルと、発生する磁場を求める数値モデルを使って父島観測点で観測された誘導磁場を調べました。

最初に津波の数値モデルを使い、東北地方太平洋沖地震の津波が父島に到達する様子を計算した結果を示します(図3)。


図3

図3   2014年3月11日東北地方太平洋沖地震津波の伝播
 赤矢印で父島の位置を示します。父島の周辺で水深が浅くなるため、津波が高くなっています。


誘導磁場を求める数値モデルは、津波の数値モデルの出力を利用します。現在も改良研究中ですが、最初に海水の流量ベクトル(流速を鉛直方向に積分した物理量)Qと上述のファラデーの法則を使って誘導電流Jを求めます。Jは海の水深h、津波の振動数ω、地磁気の鉛直成分Fzによる関数Uによって、


J=U{Fz,ω,h}∇・Q

と表すことができます。変換関数Uは虚数を含んでいますので、η(津波の高さ)の時系列データをFFTを使って周波数空間に写像してから変換し、逆FFTを行って実空間に戻します。これで誘導電流Jが得られます。格子点毎に計算しますので、数百万回のFFTと逆FFT変換を行います。

父島観測点に届いた誘導磁場を求めるには、ビオ・サバールの法則を使って、電流Jを積分することで、父島観測点の磁場変動が求められます。


図4

図4  ビオ・サバール積分 
dBを全海域の電流素片からの磁場を父島観測点を中心にして積分します。


以上のように、津波による誘導磁場は簡単に計算することができます。

得られた津波の波形と誘導磁場を図5に示します。図2と図5を比べると、良く似ています。特に誘導磁場の方が早く現れる現象が、良く再現されています。

図5

図5 計算された津波の波形と、誘導磁場
津波の数値モデルで計算した津波の波形を青線で示し、誘導磁場の計算結果を赤線で示します。


次に父島周辺の海水の盛り上がりを図6に示します。黄緑の星印で示した父島の北東の方向から、津波が押し寄せています。津波によって発生した磁力線は、ぐるりと津波を回るように伸びて、父島の上から下に向かって通過します。津波から発生した磁力線は、遠くまで届くので、津波自身よりも早く観測されるわけです。

図6

図6 父島に来襲する津波と、発生する誘導磁場
 3Dグラフで海面の盛り上がりを示しています。白っぽくなっているのが、津波の波頭です。黄色の波線と太矢印で津波の先端を示し、黄緑色の星印で父島の位置を示し、赤色の弧状矢印で、模式的に津波から伸びている磁力線を示します。


地磁気観測点を方位磁石(コンパス)に例えるなら、津波は発電機として海水に電流を流し、その電流は磁力線に囲まれた電磁石に例えることができます。たとえ方位磁石から電磁石が離れていても、その針が振れ始めることは、容易に理解できると思います。

本研究は、地磁気観測を応用して早く津波を検知して、災害を軽減することを目標にしています。今後も目標に向かって進めて行きたいと考えています。


なお、本研究は、海洋研究開発機構の浜野洋三さん、市原寛さんと共同で行っています。

*Manoj, C., 2011, Observation of Magnetic Fields Generated by Tsunamis, Eos, 92, 13-14.

*Yozo Hamano, 2011, Takafumi Kasaya, Hiroshi Ichihara, Hidee Tatehata, Magnetic signals from 2011 Tohoku earthquake tsunami observed at Chichijima magnetic station of JMA(MIS036-P80).



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