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令和元年度調査研究のトピックス(1)

地磁気短周期現象の情報活用に関わる調査

研究代表者:笹岡 雅宏

高度情報化社会を支えるシステムに障害を与える地磁気極端現象は事例こそ少ないが、太陽活動と地磁気の変動が社会に与える影響及び評価を行なうための基礎資料として、地磁気観測所に長期間にわたり蓄積された地磁気及び地電流の変化観測データが利用可能である。そのデータ活用を促進するために、地磁気短周期現象のデータベースの拡充を図るとともに、地磁気短周期現象の早期情報提供に向けた調査研究に取り組んでいます。ここでは、宇宙環境データの解析、及びブロマイド記録から求めたデジタル7.5秒値(以下、ブロマイド7.5秒値)を用いた地磁気脈動現象piの検出について紹介します。

1. 宇宙環境データ(SEDA)の解析
 静止衛星ひまわりは、およそ6.6Re(Re:地球半径)の放射線帯外帯に位置しており、SEDA(Space Environment Data Acquisition Monitor)は静止軌道上の宇宙環境をモニタする目的で陽子線および電子線を計測し、衛星のハウスキーピングおよび故障解析に用いることを目的に設置されています。電子線は1 個の電子センサに、測定エネルギー感度の異なる8 個のプレートを直列に配置し、0.2MeV〜5MeV のエネルギー範囲の電子線の計測を行っています。
 静止軌道領域の外帯電子フラックスは、コロナホール流到来時に大きく増加することが知られています。電子エネルギーフラックスの増加及び太陽風速度の関係を、2017年のSEDAデータおよびace衛星データから求めました。SEDAデータは、変動がみられるch1(200keV)からch7(5Mev)の7つのチャンネルデータを用いました。コロナホール流による電子フラックス増加について、各チャンネルのピークと太陽風速度のピークとのずれを図1に示します。ch1、ch2およびch3は太陽風速度のピークから1日後、ch4およびch5は2日後、ch6は4日および5日後、ch7は5日後となり、電子フラックスのピークは、エネルギーが高くなるにつれて、遅くピークを迎えることがわかりました。また、低いエネルギー電子フラックス(例えば、ch1)が減少していくときに高いエネルギー電子フラックスが上昇しています。より高い電子エネルギーフラックスが遅れて観測される現象は、高いエネルギーの電子ほど太陽から遅れて到達するのではなく、放射線帯で励起されたコーラス放射による波動粒子相互作用によって、外帯電子が加速されエネルギーが高くなることが最近の考え方の主流になっています。

図

図1 コロナホール流到達時の電子エネルギーフラックスの日変化
   電子フラックスは最大値で規格化、太陽風速度は7回の平均値


コーラス放射との関連を調査するため、ジオスペース探査衛星「あらせ」(ERG)のデータを使用して比較しました。「あらせ」衛星は、ヴァン・アレン帯に存在する高エネルギー電子を直接観測するための探査衛星で、2016年12月20日に打ち上げられました。衛星に搭載されたプラズマ波動・電場観測器(PWE)の観測データから求められたコーラス放射(電場)バーストリストを用いて、1日ごとのコーラス放射継続時間を算出しました。2018年8月1日から9月30日までのSEDAデータch1、ch4、ch7、柿岡地磁気H成分、柿岡K指数の日合計(ΣK)および「あらせ」衛星コーラス放射継続時間(秒)を図2に示します。赤枠の8月15日から22日までは、低い電子フラックスは増加し、高い電子フラックスは増加していません。この期間はコーラス放射継続時間が短い。一方、緑枠の8月25日から9月1日までは、コーラス放射継続時間が長く、高い電子フラックスが増加しました。また、矢印の9月17日の高い電子フラックスの増加は、前日のコーラス放射継続時間が長く、コーラス放射によって一時的にフラックスが増加したものと考えられます。このことから、高い電子エネルギーフラックスの増加は、現在の主流の考えを支持する結果となりました。また、コーラス放射は柿岡地磁気水平成分から、地磁気嵐の回復相で長く発生することも確認されました。


図

図2 2018年8月1日から9月30日までのSEDAデータch1、ch4、ch7、
   柿岡地磁気H成分、柿岡ΣKおよび「あらせ」衛星コーラス放射継続時間


高い電子フラックスの増加は、太陽風によって磁気圏に浸入した低いエネルギー電子が、コーラス放射によって加速されることが、SEDAデータおよびジオスペース探査衛星「あらせ」(ERG)観測データから確認できました。今後は、事例解析を重ねて高い電子フラックス増加と地磁気変動との関係を、統計的に調べていきます。


2. ブロマイド7.5秒値を用いた地磁気脈動現象piの検出
 pi諸元(出現時刻、周期、振幅)を自動で検出する手法を用いて、主にデジタル毎秒値から検出したpiについて調べています。ここでは、ブロマイド7.5秒値から検出したpiについて、デジタル毎秒値と比較して検証した結果について述べます。本検証には、柿岡において並行観測を行っていた期間中の1994年4月及び8月のブロマイド7.5秒値とデジタル毎秒値を用いました。図3に両データからの検出piの周期別頻度分布を示します。ブロマイド7.5秒値の頻度分布は、周期80s以上の検出頻度が大きく、周期80s以下は少ない。piの周期別頻度分布に偏りが生じる可能性のある原因には、ブロマイド7.5秒値における短周期成分の欠如が挙げられます。ウェーブレット解析により、デジタル毎秒値に含まれる短周期成分を除けば、デジタル毎秒値とブロマイド7.5秒値の変動成分は基本的に似ていることが分かりました。吊り磁石変化計においては、振動する吊り磁石から印画紙への感光は短周期変動からpiを検出するのに十分な振幅を記録しないため、ブロマイド7.5秒値を用いて求めたpiの周期別頻度分布には80s以上の区間に偏りが生じることが示唆されました。


図

図3 自動pi検出による柿岡3成分(X,Y,Z)の周期(T)の頻度分布(1994年4月及び8月)
   (左)ブロマイド7.5秒値、(右)デジタル毎秒値を用いた結果

 

ブロマイド7.5秒値とデジタル毎秒値からそれぞれ検出したpiの周期と振幅の比較結果を図4に示します。検出された全てのpiが比較できることはありませんでした。両データの比較に際しては、発現時刻が概ね一致するデータについて、同じpiイベントと判断し比較可能としましたが、一方のリストに該当する検出例が無ければ比較不能としました(図4左図)。比較可能なブロマイド7.5秒値の割合は、X成分について82%でした。この82%の周期比較は全体的に良い一致が見られます(図4中図)。検出された全piの平均周期については、ブロマイド7.5秒値のほうがデジタル毎秒値に対して、X成分で+11sの偏差がありました。また、振幅比較ではデジタル毎秒値のほうがブロマイド7.5秒値よりも全体的に大きいです(図4右図)。両データの間に、piの周期については整合性が見られることが分かりました。

図

図4 柿岡X成分の周期(T)及び振幅(最大変化量)の比較結果(1994年4月及び8月)
   (左)ブロマイド7.5 秒値の比較可能頻度(赤)及び比較不能頻度(茶)、(中)周期比較、(右)振幅比較


今後は、piのQualityのクラス決定の自動処理化を図ることにより、特にクラスC(doubtful)に関して確度の高い決定を目指し、自動検出したpiのクラスについて検証します。




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