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地磁気観測所テクニカルレポート 第07巻 第01,02号, p.1, 2010年3月


東京/柿岡における地磁気観測の歴史と現状


源泰拓


要旨

 日本の地磁気観測は1883年から東京の中央気象台で行なわれていた.東京の都市化の進展に伴い,路面電車などによる人工ノイズが増加したことから,1913年に地磁気観測所を東京の北東約75kmに位置する柿岡に移転した.柿岡での観測結果は中央気象台に送付されていたが,1923年に関東大震災が起こり,中央気象台に保管されていた記録紙,野帳などがすべて焼失した.1923年以前の地磁気の記録として残っているのは,それまでに印刷物として刊行されていた1897年から1915年のもので,1916年から1923年までのデータは,残念ながら欠落している.
  1950年,変化観測測器が,地磁気観測所で開発された温度補償を実現したものに更新され,著しく変化観測の精度が向上した.絶対観測測器については,1956年,ユニバーサルマグネトメータ方式A-56型標準磁気儀,サインガルバノメータ方式H-56型標準磁気儀を開発した.そして1965年ベクトルプロトン磁力計MO-Pを採用することにより,絶対観測の品質は飛躍的に改善され,当時の世界の観測所のなかでも第一級のものになったといえる.
  1976年,Kakioka automatic standard magnetometer (KASMMER)が導入された.このKASSMERにより毎分値の提供が可能となった.さらに秒単位のデータについては,まず1985年から3秒ごとの観測値が,1987年から毎秒値が公開されている.
  現在,地磁気観測所では,絶対観測を角度測定器DI-72とプロトン磁力計で,変化観測を高感度3軸フラックスゲート磁力計と4台のオーバーハウザー磁力計で行っている.主測器は高感度3軸フラックスゲート磁力計で,3成分の毎秒値と0.1秒値を測定している.高感度3軸フラックスゲート磁力計には傾斜と温度の監視装置が設置されているが,年間の温度変化は3℃以内に保たれて,傾斜変動も安定している.
  一方,地磁気観測所周辺は宅地と農地であり,車輌や建造物等の磁性体,あるいは各種工事による人工擾乱は観測に影響を及ぼしうる.このような人工擾乱の増加に対応するため2007年に「人工擾乱計測システム」が整備された.これは観測所構内に配置した複数の地磁気計測器の測定値から,人工擾乱源の位置と磁気モーメントを求めるものである.
  過去のデータの検証によると,1947年までの柿岡のデータについて,絶対観測データの処理に不適切なプロセスがあったことから,これまでに公表されたものは品質に改善の余地があることが判明している.1948年にIATME Oslo meetingにてなされた報告では,1947年以前の絶対観測精度はそれ以降よりも著しく劣るとされたが,観測データを検討し,適切な再処理を施すと,その精度は1948年以降とほぼ同等であることがわかった.このため1920〜1940年代の絶対観測結果を再点検し,地磁気データの再計算を進めている.
  1976年に光ポンピング磁力計が導入されるまでの期間については,地磁気変化観測の結果は毎時値のみが公開されているが,過去データをより利用しやすい形態で提供するため,地磁気観測所では,地磁気ブロマイド記録からデジタル毎分値を作成するための手法を開発している.
  なお,本稿は"History of Geophysics and Space Science"に投稿した"THE HISTORY AND THE PRESENT SHAPE OF THE TOKYO/KAKIOKA MAGNETIC OBSERVATORY"の和文を,許可を得て地磁気観測所テクニカルレポートに寄せたものである.



[全文 (PDF; 日本語; size:1022KB)]


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