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研究代表者:源 泰拓
たとえば、地震について言えば、多くの人が「小さな地震はしょっちゅう起こるけれど、大きな地震はめったに起こらない」と感じているはずです。詳しく調べると、マグニチュードが小さく(地震の規模が小さく)なると、発生数がおよそ十倍になっています。このことは"グーテンベルグ・リヒター則"という名前の法則として知られています。この研究課題では、似たような法則が、磁気嵐にも見られるかどうか調査しました。
この調査には、柿岡(茨城県石岡市)で1924年から2012年までに観測された、1932個の磁気嵐のリストを用いました。図は、磁気嵐の規模と発生数の関係を示すものです。縦軸は規模の大きいもの(右)から小さいもの(左)へ、順に積み重ねた磁気嵐の個数です。横軸は磁気嵐の水平成分の変動量です。横軸は常用対数で表されているので、たとえば"2"にプロットされているものは10の2乗=100に相当します。
結果は、地震の"グーテンベルグ・リヒター則"に酷似しています。発生のメカニズムがまったく異なる地震と磁気嵐で同じように、規模が小さくなると発生数がおよそ十倍になっていることは、大変に興味深いものです。さらに統計的な解析を行ったところ、千年に一度発生する磁気嵐は、これまでに観測された最大のものの、およそ4倍の磁場変動をもたらす可能性があると推測されました。
大きな地震が被害を伴うように、大きな磁気嵐も被害をもたらすことがあります。1989年(平成元年)3月に発生した磁気嵐により、カナダで9時間にわたって停電しました。これは、大規模な磁場の変動によって、送電線に大電流が流れて、送電システムが障害を起こしたためとされています。
日本は緯度が低いので、カナダで起こったような磁気嵐に伴う障害は、これまで注目されていませんでした。この研究は、巨大な磁気嵐に伴う、日本で観測されるかもしれない激しい磁場の変動、ひいてはもたらされる被害の検討に貢献できるものと考えています。
地磁気観測所では、柿岡、女満別(北海道大空町)、鹿屋(鹿児島県鹿屋市)の3点における地磁気観測データから、磁気嵐、sudden impulses, storm sudden commencementといった短い時間にはげしく変化する現象の記録を続けています。これらの観測記録は当所webサイト内の「過去の地磁気現象の検索」から検索することができます。
図1 磁気嵐の磁場変動量の累積度数分布(柿岡)。 縦軸は発生個数:大きいもの(右)から小さいもの(左)へ、順に積み重ねた個数。 横軸は水平成分の変動量(単位はnT)